データフロー志向開発

私の年長の友人であり大学の先輩でもあるM氏は、大手食品メーカT社(社名のイニシャルではない)において情報システム部門の礎を築いた人である。M氏が指導して導入した数々の先進的手法のおかげで、現在でもT社のシステム部門は同業他社に比べて一世代先を進んでいる。かといってM氏は決して情報工学の専門家ではない。大学では経済学を収めた体育会系の人物である。

M氏が導入した手法(考え方とも言うべきかもしれない)の中で、現在でも有効なもののひとつにデータフロー志向の開発手法がある。M氏いわく、システムを開発するときに最も大事なのは、データの流れに注目することだ。ここで言うデータとは、例えば発注書に起因する受注から納品での流れの中では、書類上の情報だけでなく商品そのものも表す抽象化されたデータである。M氏はなんと、この思想を30年以上前から開発の基本に置いてきた。

M氏がデータフロー志向の考え方に至ったのは、食品工場勤務を経験したことが大きい。M氏の勤務した工場で作っているのは特別な食品で、長いものでは生産ラインの上に30年以上も滞在するものさえある。この食品は、材料の段階から始め、加熱や添加、貯蔵を何段階も繰り返す。各段階で、食品には生物学的変化や化学的変化が何度も起きる。税法上の問題があるので質量双方について厳密な管理が必要であり、間違いは絶対に許されない。

M氏はこの工場の製品製造ラインを、システムで管理しようと考えた。40年ほど前のことである。どうもそのときに、製品の流れをデータの流れとして抽象化する考え方を身につけたらしい。その後、情報システム部門の責任者になったM氏はそのアイデアを開発手法に活かすことになる。

マーケティングにおけるデータの重要性に早くから気づいていたのもM氏である。商品の売れ先情報を取りたいがために、当時は生まれたばかりのPOSを問屋網に導入して電話回線で結ぼうとした(結果的には世の中の進歩より10年ほど早かったために、あまり成功しなかった)。

そんなM氏であるが、システム設計の手法には典型的なウォーターフロー式を採用していた。さすがの天才的嗅覚も、20年先まで見通すことはできなかったようだ。